春夏秋冬《きせつ》の短編集
花吹雪と遠距離恋愛
遠距離恋愛というのは辛い。
近くにいた人が遠くに行ってしまうのなら、なおさら私はそう思う。


「…ヒロ君、たまには連絡してね……」

「わかってる…じゃ……」

中学生じゃ、親についていかないと生活なんか出来ない。

ヒロ君は両親の運転する車に乗せられて、引っ越し先に行ってしまった。

「…!」

泣いたって仕方が無いのは分かっている。
それでも、やっと告白して付き合えたばかりだったのに、遠く離れるなんて…。


前に二人で来た、桜がたくさん植わっているこの公園は、今は満開。
春の心地よかった風は夜に近づくたび冷たくなっていった。

「……。」

私は、夕方の公園のベンチに座り込んだ。
みんな帰っていく。
私は泣き腫らした顔のまま下を向き、そのまま時間が過ぎていった。

ふと気付いて見渡すと、周りには誰もいない。

(こんなに人、この時間にここに居なかったかな……)


サラサラサラ……

桜の枝が風になびく。
何気なく見ていると、一本の桜の前にスッとキレイな女の人が現れた。

桜色の着物に、茶色の髪をなびかせて立っていて、ソワソワと落ち着かない様子だ。

(幽霊…??でも、なんだか怖くない…)

私は泣いていたのも忘れて見入ってしまう。

はら…はらはら……

桜の花びらが少しずつ散る。

その人は散る桜を見て胸の前で手を組んでいたけど、何も変わらない状況にそのうち悲しそうにため息を付き、下を向いた。

(誰か、待ってるのかな…)

薄暗くなった公園にいるのは、着物のその女の人と私だけ。

その人は私に気づいたのか、私に目を向けて寂しそうに笑った。そしてそのまま後ろを向き、スッと消えた。

(いなくなっちゃった…?怖くなかったけど……悲しそうだった…)

私もゆっくり立ち上がり、ようやく家に向かってトボトボ歩き出した。
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