春夏秋冬《きせつ》の短編集
終わると女の子は嬉しそうに笑い、キツネやタヌキも嬉しいのか何度も跳ね回っている。

「…君が降らせたの…??」

女の子は驚く僕を見て、なぜか気まずそうにした。

(なんだろう?悪いことをしたと思ったのかな?)

「しかも雨を、加減して降らせられるなんて、すごいね!!」

僕は自分の素直な気持ちを、聞こえないかもしれない言葉と一緒に、女の子に向かってせいいっぱい笑って見せた。

今度は女の子が驚いた顔をする。そして嬉しそうに笑った。
雨の中だというのに、キツネやタヌキやその子はまったく濡れずに、キレイな水色の着物は風になびいている。


女の子とキツネやタヌキが僕に手を振る。
みんな寂しそうだった。

「もうどっかに行っちゃうの…?…またね!!」

僕もなんだか寂しかったけれどそう言った。
女の子たちはゆっくりと僕の目の前から消えた。


夜眠る前、僕はなぜか気になって、部屋の窓からしとしとと雨が降る外を見た。

「あ、あの子だ……」

雨の外、うちから見える小さな公園の隅に誰かが立っている。
暗いから普通はわからないはずなのに、僕にはなぜかすぐにあの子だとわかった。

女の子は一人で、なんだか悲しそうに見える。昼間、僕と出会ったあたりを見て、下を向いた。

(友達、あの動物たちの他にいないのかな……)

僕は降り続ける雨にもかまわず窓を開けた。

「また、来てよ…!いつでも、来ていいからさ…!」

聞こえないかもしれない。
でも、あの子に届けと思いながらそう言った。

『ありがとう…!』

女の子の嬉しそうな声が聞こえた気がした。
そして女の子の姿は消えていった。

あの子がいなくなった公園には、いつの間にか薄い緑色の着物を着た人がいた。

(薄緑の…やっぱりいたんだ…!!)

きっとあの人も普通の人間じゃない。だってこんな雨の中、はっきりと僕には見えるから。

その人も、空を見上げて手を広げると、そのまま消えていった。


緑が広がる夏の前の、不思議な出会い。

「またきっと会おう…!」

あの子が降らせているなら、雨の日だって悪くない。
あの女の子にまたいつか会えたら、次はなんて言おう…?
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