そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
「ひとりで食べるのが嫌なら、俺が付き合おうか?」


 そう問いかけても、小さな花々里(かがり)はフルフルと首を横に振るばかり。



 俺はそのとき、鞄に忍ばせていた八千代さん手作りのキャラメルを彼女に差し出して言ってみた。


「じゃあさ、夕飯はお母さんと食べるとして、俺と一緒にキャラメル(おやつ)を食べない?」


 昨夕村陰(むらかげ)さんのお嬢さんに会いに行くのだと話したら、「でしたらこれを食べさせてあげてくださいな」と八千代さんに持たされたのだ。

 この手作りの菓子(しな)こそが、過日八千代さんから言われた、「(わたくし)も全力でサポートいたしますので」の始まりだった――。
 

 八千代さんお手製のキャラメルは市販のものより柔らかめで口解けがいい。
 甘さも絶妙で、俺もかなり好きだったから、作ってもらった《《それ》》を、嬉々として持ってきていたんだ。

 花々里に拒否られても、俺自身が食えばいいだけだと思って。



 キャラメルを見せた時の、花々里のキラキラした目を、俺は今でも鮮明に覚えている。


 夕飯はダメでも、お菓子ならいいという浅知恵具合が可愛いらしいな、と思ったのと共に――。




 その思いが、長じてから「愛しくてたまらない」になるなんて……その時の俺には知る(よし)もなかったのだけれど。

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