そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
***

花々里(かがり)、待たせたね」

 待ちくたびれてうとうとしていたら、不意にポン、と肩を叩かれて。

 その感触に、寝ぼけ(まなこ)をこすりながらぼんやりと視線を上げると、すぐそばに頼綱(よりつな)が立っていた。

「……頼綱っ!」

 ずっと待ちぼうけだったから嬉しくて、感極まった私は立ち上がるなり思わず頼綱にギュッとしがみつく。
 いつもなら絶対にしないことをしてしまったのは、きっと寝ぼけていたのもあったんだろうな。

「花、々里……っ?」

 途端降ってきた、頼綱の戸惑ったような声音でハッと我にかえる。

「あ、ご、ごめ、なさっ」

 頼綱から触れられることはあっても、自分からそんなことをしたことはない。

 お仕事で疲れてるのに急にこんな……。嫌だったよね。

 雇い主が使用人に触れるのと、その逆とではやっぱり意味合いが違い過ぎる。

 分不相応(ぶんふそうおう)なことをしてしまったと思ってしゅん……として。慌てて離れようとしたら、そのままギュッと抱きすくめられてしまう。

「俺はキミのことを憎からず思っていると散々伝えてあるよね? なのに何を謝る必要がある?」

 すぐ耳元で低く甘くささやかれて、心臓がキュン、と高鳴った。
< 317 / 632 >

この作品をシェア

pagetop