そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
 と、思い掛けず受付の方で電話の音がして、私は一気に現実に引き戻される。

 診察時間を大分過ぎて、昼間ほど人気(ひとけ)はなくなったとはいえ、ここは24時間体制の総合病院。

 無人ではない。

 私たち、そんなところで何ラブシーンなんて演じちゃってるのっ!

 頼綱(よりつな)の香りに包まれて心臓がバクバクうるさい。

 このままくっ付いていたら、それも彼にバレてしまいそうで、私は懸命に腕を突っ張って、頼綱から身体を引きはがした。


「もう終わりとは――。キミは本当に(つれ)ない女性(ひと)だ」

 一生懸命頼綱から距離をとる私を見て、頼綱がククッと喉を鳴らすように笑う。

 その意地悪な笑顔でさえカッコいいと思ってしまう私は、完全に頼綱(よりつな)のことを好きになってしまったんだと自覚した。
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