そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
***

 病室を出る前、頼綱(よりつな)がお母さんに、「順番が色々前後してしまうんですが、今からお嬢さんと指輪を見に行こうと思います」って言って。

 私が発した「えっ!?」って言葉より、お母さんの「まぁ! 素敵っ!」っていう声の方が大きく響いた。

 それで、結局今の今まで頼綱の言葉の真意を聞けず(じま)いになってしまったのだ。



「ねぇ、頼綱(よりつな)。本当に今日買うの?」

 車に乗り込むなりそう問いかけた私に、頼綱は

「何を今更。さっき村陰(おかあ)さんにも言っただろう? 俺としては花々里(かがり)には一刻も早く指輪をつけてもらって、俺の妻になるという自覚を持ってもらいたいんだよ」

 エンジンをかけながら真剣な顔でそう言って、

「婚約指輪も結婚指輪もどちらも買うけれど、婚姻届は準備が整い次第日柄の良い日を見計らって、なるべく早く出すつもりだからね。結局普段使いになるのは結婚指輪の方になると思うよ?」

 とさらりと続けるの。

 その、あまりの展開の早さに「え!?」と声を上げた私に、

「不満なのかい?」

 ハンドルを握ったまま、頼綱に横目でチラリと睨まれて、私は思わず萎縮する。

 嫌なわけではないし、不満だってない。

 ただ、やたらと事を急ぎすぎている気がして不安になっただけ。
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