そろそろ喰ってもいい頃だよな?〜出会ったばかりの人に嫁ぐとか有り得ません! 謹んでお断り申し上げます!〜
花々里(かがり)。もしかして忘れたのかい? キミの幼なじみくんが『諦めない』って捨て台詞を残してくれたこと」

 小さく溜め息を落とすと、頼綱(よりつな)が超絶不機嫌そうな顔をしてボソリとこぼした。


「俺だって、よもやそう易々と俺の花々里を誰かに渡したりするつもりはないけどね。それでも万が一を考えると堪らなく心がざわつくんだよ」

 そこでちょうど信号が赤になって、車が停車する。
 頼綱はここぞとばかりに私の顔をじっと見つめてきた。

「ねぇ花々里。心身ともに村陰(むらかげ)花々里が御神本(みきもと)頼綱のものになるって印。――不安だから一刻も早く付けさせて?って言ったら……キミは引くかい?」

 婚姻届で法的に縛ること。
 指輪で物理的に自覚させること。
 花々里の〝初めて〟をもらうこと。

 それらを全てクリアしても、不安なのだと頼綱が眉根を寄せる。


「頼綱……。私、貴方が思ってるほどモテないし、そんなに心配しなくても大丈夫だよ?」

 あまりに不安そうな顔をする頼綱に、思わず彼の頭を撫で撫でしてそう言ったら、その手をギュッと掴まれた。

花々里(かがり)、それでも()は――」

 そのまま頼綱が私の方へ身を乗り出そうとした、ちょうどそのタイミングで信号が青に変わって。

 頼綱は名残惜(なごりお)しそうに私から視線を外すと、手を解いて車を発進させた。


 ねえ、頼綱。貴方はいま、何を言おうとしたの?
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