政略婚~腹黒御曹司は孤独な婚約者を守りたい~
「わざわざ、今日はありがとう」

先生がお礼を言うと、壱都(いちと)さんが微笑んだ。

「いいえ。ご挨拶が遅れてしまい、申し訳なく思っています」

「まあ、よろしいのよ。今日、二人で来てもらったのはね。実はこれを渡そうと思っていたからなの」

着物の襟もとから先生が封筒を取り出した。
達筆な字で先生の名前が書かれている。
その字が誰のものなのか、すぐにわかった。

「どうぞ、お持ちになって」

壱都さんはなにかを察したようだった。

「ありがとうございます。お借りします」

「壱都さん、この手紙になにか書いてあるの?」

「ああ。この消印を見るとわかる」

消印はお祖父さんが亡くなった前日―――お祖父さんはなくなる直前、先生に手紙を出していた。

「これで、会長の不名誉が晴らされることを祈っていますよ」

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