僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
 葵咲(きさき)ちゃんは残酷だ。
 ずっと一緒に過ごしてきたのは今更どうしようもないじゃないか。

「幼馴染みは恋愛対象にはなれないってこと?」

 低く押し殺した声で問いかければ、こちらを見ないでこくんと首肯(しゅこう)する。

「僕の方を見て?」

 その態度にどこか違和感を覚えて()えば、子供のようにイヤイヤをする。

「なんで?」

 思わず葵咲ちゃんの細い両肩に手をかけると、
「だって理人(りひと)、初めて会った時、私にお兄ちゃんって呼べって言ったじゃない!」

 刹那キッ!と睨みつけられた。

 もしかして彼女、泣きそうなのを(こら)えてる?

 何となくだけど、そんな気がした。

「……葵咲?」

「小さい頃は私のお兄ちゃんになるって言ったくせに……私が大きくなった途端いきなり男だと思えって……勝手すぎるよ……」

 確かにそうだと思う。

 でも、悪いけど僕は……彼女を妹だなんて思った事はただの一度もないんだ。
 彼女に近づくためだけに兄の仮面を被っていたのは事実だけど、その仮面を被り続けろと言われても土台無理な話だ。

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