僕惚れ①『つべこべ言わずに僕に惚れろよ』
待ち合わせ
 昨夜、僕は葵咲(きさき)ちゃんのお母さんから聞いていた彼女の携帯に電話をした。

 幸い先方も僕の番号は登録済みだったみたいで、名乗る前から僕だと分かってくれているようだった。

「きみの都合のいい日で構わないんだけど……図書館の閉館後に少し話せないかな?」

 さすがに仕事中に腰を据えて話すのは無理だ。

 彼女がすぐに答えをくれないのが少し不安になって、「十九時(しちじ)には閉まるから」と畳み掛けるように言葉を添えた。

 寸の間の沈黙の後、葵咲ちゃんは「明後日なら」と答えてくれた。

 ちょうど返却したい本もあるのでそのついでに、ということだった。


***


 ――約束の日。

 カフェで早目の軽い夕食をとってから、僕は図書館に戻ってきた。

 上では篠原さんが留守番をしてくれている。もう少ししたら鈴木君も来るはずだ。

 館内に入る前に何気なく空を見上げると、見慣れない太めの筋雲が三本、長く横たわっていた。飛行機雲にしては変な雲だな、と思う。

 あまり見かけない雲というのは良くも悪くも心惹かれるもので。僕はしばらくの間、空に見入っていた。
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