【SR】卵
「先生、これって願いを叶えてくれる“おまじない”があるんですよね?」
「おまじない?」
「そう、彼が言ってたんです」
校長先生も、ブルーの卵を一つ手に取った。
「これに、そんな力があるっていうのは、知らなかったな」
えっ?
「でも、彼が言っていたよ。いつもクラスに一人だけ、元気に挨拶をしてくれる子がいるんだけど、その子が最近元気がないんだと。彼は、昔からカンのいい子でね。なんとかしてあげたい、とね」
それって、私のこと?
「それなら、その子の悩みをお前が聞いてあげればいいよ、と私は言ったんだよ。きっと、話下手な彼は、話すキッカケが欲しかったんじゃないかな?」
そう言って、先生は卵を指差した。
「先生、ノゾミさんって言うのは?」
「あの子のミドルネームなんだよ。私の妹が、自分の息子にも、その息子にも、日本語で名前をつけていてね、君と同じ名前だ。だから彼も君のことが気にかかったのかもしれないね」
なんだ……
やっぱり、おまじないなんて、なかったんだ。
でも、ふと卵を持つ自分の指先が目に留まり、あの姿がチラッと頭をよぎった。
指先の爪の間には、さっきのボンドが、落としきれずに残っていた。
じゃあ、あの卵はいったい……
私は何かすっきりしないまま、校長室を後にした。