Let's鬼退治!

第3話

 翌日、生徒会のはーとしーに尋ねてみれば、そのバレエ部新部長は三組の雉沼さんだった。

三組にはさーちゃんもいる。

「キジ、呼び出したりしてゴメンね」

 一年の時にいっちーとキジは同じクラスだったらしい。

いっちーの呼び出しに応じたキジは、昼休みの中庭にやって来た。

「あら。珍しいこともあるもんだと思ってたら、なんの用?」

 キジと呼ばれた彼女は長い黒髪を泳がせ、仕草までとっても優雅で気品がある。

スラリと背の高いいっちーと彼女が並ぶと、長髪の騎士とどっかのお姫さまみたいだ。

「あのさ、バレエ部のことなんだけど……」

 一通り事情を説明した後で、キジはため息をついた。

「で、私たちのこととあなたたちになんの関係があるの?」

 キジは切れ長の目を冷たく光らせる。

「鬼退治サークルを作るのはどうぞご自由に。だけどそれとこれとは話しが別よ」

 彼女は立ち上がる。

「この話しはさーちゃんにも?」

 あたしはゴクリと唾を飲み込む。

この二人の関係をコントロールしたいなら、どうすればいい? 

だけどこんなところで、つまらないウソをついても仕方がない。

「さーちゃんから聞いた。彼女も何とかしたいと思ってる」

「そう」

 キジの艶やかな黒髪が揺れる。

「申し訳ないけど、あなたたちの助けはいらない」

 昼休み終了5分前のチャイムが鳴る。

去りゆく彼女の背中に、昨日見たさーちゃんの寂しそうな背中が重なる。

あたしは覚悟を決める。

やっぱりなんとかしなくちゃ。

それは鬼退治のためってだけじゃない。

放課後になった。

「頼もう!」

 勢いよく演武場の扉を開けた。

さーちゃんとキジはそれぞれの仲間を引き連れ、やっぱり向かい合っている。

「来たね、もも!」

 さーちゃんは手刀を構えた。

「ここにあんたたちの居場所はないって言ったよね!」

 その手にはチアのポンポンが握られている。

キジは派手なバレエ用の扇子を手にしていた。

「口出しは無用って、確かに伝えたはずだけど?」

「くっだらない喧嘩してるくらいなら、うちらに場所譲れ!」

「悪いけど、それは無理!」

 あたしは腰のこん棒に手を置いた。

さーちゃんの高いジャンプからの跳び蹴り。

チア部部長の彼女は、身軽さが最大の武器だ。

着地と同時に床を擦るような素早いリーチからの回し蹴り。

飛び退いたあたしの落下予測地点に、渾身の拳を突く。

その拳を避けたはずのあたしの頬を、ポンポンのヒダがかすめた。

レインボーラメのそれは薄い刃のように肌を裂く。

空中で自在に弧を描くポンポンは、さーちゃんの手に戻った。

「キジ、ここは一時休戦ってことで」

「そうね。まずはももたちをなんとかしないと」

 元々は仲良く同じチームを組んでいた相手同士だ。

手強いのは分かってる。

「どっからでもかかって来い!」

 さーちゃんは両手に大きくポンポンを掲げ大の字ポーズを決める。

その前でキジはバレエダンサーらしく扇子を片手にしなやかなポーズと取った。

「邪魔はさせない!」

 腰のこん棒を抜いた。

「望むところよ!」

 あたしが踏み込むと同時に、2つの影は動いた。

ポンポンは手裏剣のように交錯する。

その1つをたたき落とした。

その隙をついた死角からキジの足蹴りが伸びる。

あたしは床にこん棒突き、それを支点に真上に伸び上がった。

ポンポンは空を斬る。

手の甲に赤い血筋が走った。
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