Let's鬼退治!

第2話

「俺たちも混ぜて。一緒にご飯食べよう!」

 入って来たのは、桃と金太郎と浦島だ。

「え、自分のクラスで食べなよ」

「いーじゃん別に」

 そう言って勝手に机をくっつけ始める。

「ねぇ、食べ終わったらみんなで、学校の案内してよ」

「そういうのはいっちーの役目でしょ」

 彼女のビクリとした目が、ちらりとあたしを見た。

「私の役目って……。もも、みんなで行こうよ」

「えーやだぁ」

 いっちーからの提案に、あたしは即答する。

昼休みはいつも昼寝をすると決めていた。

じゃないと午後の体育のあとは、寝るしか出来ない。

「どっかで剣の練習でもすんの?」

 桃のお昼はあたしと同じどっかで買ってきた何か系だけど、金太郎と浦島は普通にお弁当だった。

浦島はふとさーちゃんに視線を移す。

「頭、触っていい?」

「は?」

 浦島の手が伸びる。

さーちゃんは無言のままじっと固まってしまった。

そんな彼女の手前で、浦島は一旦動きを止めたけど、逃げもせず拒否もしなかった坊主頭にそっと手を添えた。

「この手触り、一回確認してみたかったんだよね」

 そう言ってなで回す。

「すっげー。やっぱ男のとは違うな」

 浦島の手が引っ込んだ。

さーちゃんは彼を見上げる。

彼女がキレ散らかし始めそうな予感がして、あたしはとっさに、さーちゃんの頭へ抱きついた。

「分かる! いや、男の坊主頭をなでたことはないけど、短い髪って下から逆なですると気持ちいいよね」

 さーちゃんの頭は女の子の柔らかい髪質の上に、同じ長さでびっしりそろっているから、そんじょそこらの毛並みとはワケが違うのだ。

彼女はため息をつく。

「あんたたちも、いっつも触ってくるもんね」

 あたしはさーちゃんの、キンッキンの頭をなで回す。

その隣でキジは、真剣な顔つきをしていた。

「私も好き」

 キジもさーちゃんの頭を撫でまわす。

さーちゃんの頬は、わずかに赤くなった。

「さー学校回るか!」

「さー昼寝すっか!」

 あたしと桃の声が同時に重なった。

「あたしは寝るからね。つーかこないだの学祭で、学校回ったでしょ」

「学祭と普段は違うって、そん時も言ってただろ」

 あたしは桃を無視して、いっちーに視線を向ける。

「いっちーに頼みなよ」

「……う、うん」

 ほら大人しくなった。ど

うせ桃は、いっちーがいいクセに。

いや、嫌みとか嫉妬とかじゃ全然なくて。

「ももは来ないの?」

 金太郎が割って入る。

「あ、もしかして鬼退治の自主練?」

 あたしは立ち上がった。

「別に。じゃ、お先に」

 数ヶ月前まで、いつもいっちーと二人でだべっていた場所に行く。

その高い城壁にもたれて、どこまでものんびりできていたのに、その壁はもうない。

あみあみフェンスでは、向こうからもこっちが丸見えだった。

通りがかった知らないじいさんと目があう。

「おいコラ、サボってんじゃねーぞ。しっかり勉強せぇ」

 舌打ちまでされた。

今は昼休みだっつーの。

せっかく天気もよくなって、暖かくなってきたのに、もうそこにあたしの居場所はない。

仕方なく別の場所に移動しようと振り向いた時、視界にみんなの姿が目に入った。

いっちーが桃たちと一緒に歩いている。

そこにはキジとさーちゃんもいて、金太郎と浦島も楽しそうだ。

自分でも、どうしてそうしたのか分からない。

彼女たちに見つからないよう、陰にかくれてこっそり移動する。

こんなんじゃ、今日の昼寝は無理だな。

あたしは7時間目の授業をあきらめた。
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