今日も久遠くんは甘い言葉で私を惑わす。
「そんなっ……本当……ありがとう……」

本当に、どこまで優しければ気が済むのだろう。

それに……泣きそうなぐらい心配してくれたんだよね……嬉しさと申し訳なさでいっぱいだ。

「……もうすぐ学校も終わるし、それまでここにいろ」

「ええっ……もう大丈夫だよ……」

まだ少しだけ頭痛がするぐらいだもん。

「大丈夫なわけねぇだろ。もっと自分のことを大事にしろ」

「ううっ……ありがとう、ございます……」

やっぱり、久遠くんは冷酷王子なんかじゃないな……。

はぁ……こうしていざ本人を目の前にすると好きと言う気持ちで心が溢れる。

「……じゃあ、俺は戻る」

「あっ……」

私の手を包み込むように握っていた久遠くんの手が離れ、ぬくもりが失われることに切なさを感じる。

「……寂しいのか」

「へっ……!?い、いやっ……」

だ、だめだっ……!

鬱陶しいヤツだと思われちゃうっ……!!

「……仕方ない。俺は生憎勉強がめんどくさいんだ。ここにいてやる」

「ええっ……そ、そんなっ……!!」

貶されるかと思ったのに、優しさに溢れた言葉に胸がいっぱいになる。

でも、さすがに助けてもらった上にそんなのは悪い。

「……じゃあ、俺が天音といたいからここにいるな」

「ええっ……!?」

う、嬉しいけど……。


……

久遠くん、キミはきっと世界一、私の心を惑わすのが上手いよ。

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