HONEYHOLIC（２）運命ウエディング～身代わり見合いの代償は溺愛～

「お気遣いありがとうございます」

私は自分の犯した失態が恥ずかくて、伊集院さんの顔をまともに見れなかった。

「達生も結婚すると前もって言ってくれればいいのに…急な話で…でも、すぐに階下の部屋に空きがあったから私はそっちに引っ越す。安心してくれ」

「あ、はい」

「冷めない間に飲んでくれ」

「いただきます」

伊集院さんは私がコーヒーを飲むのを見届け、キッチンに戻った。

彼の淹れてくれたコーヒーを飲み干して、キッチンにカップを持って行った。

「ごちそうさまでした」

伊集院さんはキッチンに立って料理をしていた。

「何かお手伝いしましょうか？伊集院さん」

「大丈夫だ。料理は完成している」

私は少しだけ、彼の作った料理を横から覗き見た。
片手鍋に入った料理は私の見た事のないの料理。
スパイスの香りも初めて嗅ぐ匂い。

「それはハモス。ひよこ豆をペースト状にしたアラブの定番料理だ。焼き立てのフランスパンに付けて食べたら、美味しいんだ」

「へぇー…アラブ料理か…初めて食べるかも」

「君の父親は「日本新聞」の記者だっただろ？」

「あ、はい…父を御存知ですか？」

「知ってるよ…私が『帝和銀行』の頭取時代、何度か取材を受けた」

支社長の椅子に座る前は記者として日本中を飛び回っていた父。
伊集院さんと父が知り合いだなんて…世間も広いようで狭い。