実らない恋だとしても… あなたへの想いが溢れそうです
まだ残暑の厳しい日、洸が取引先から帰社するとビルの前に人だかりがあった。
「何だ?」
同行していた秘書に尋ねると、直ぐに答えが返ってきた。
「社長から許可を頂いていた、雑誌の撮影ですね。」
「ああ…あれか。」
「うちのビルのクラシックな外観が気に入ったようで、
最近ファッション誌からグラビア撮影の許可申請が多いんです。」
「この昭和レトロっぽいのがいいのか?」
「そのようです。」
「ま、中は困るが、外観ならコマーシャル代わりだな。」
この暑さの中、コートやジャケット姿のモデルが数人ポーズを取っていた。
その中には、妹の夏子の姿もあった。少し前より、頬がこけた様に見える。
スタッフの中に坂井良樹の姿もあった。
彼も洸に気がついたようで、ペコリと頭を下げている。
洸がふと思い立ち、彼を手招きして呼んだ。