実らない恋だとしても… あなたへの想いが溢れそうです
「晴美ちゃ~ん。ただいまあ。」
「お帰りなさ~い、貴子さま。」
二人はギュッと抱き合っている。いつもの見慣れた儀式だ。
もう30年近い付き合いだと言うが、普段の二人は10代の頃のままだ。
言葉使いまで可愛くなってしまう。
「真穂も、ありがとね~。」
「お疲れ様、お母さん。」
「ん、疲れて~お腹空いてるのお。」
「じゃあ、三人でどこかへ食事に行く?」
「やあだ。真穂のご飯が食べたいわ。」
「貴子さま、無理ですよ。ここには…ロクな食材が無いでしょ。」
「もう出かけるの面倒なのよ~。」
ぷうっと膨れてソファーに座り込む母には大女優の面影はなく、普通のオバサンだ。
「米田さん、私キッチン見て来ますね。」
母が剥れるのはいつもの事で、夏子に比べたら可愛いものだ。
真穂がキッチンのあちこちを探すと、缶詰めや冷凍のご飯が目に付いた。
何通りかのメニューが浮かんでくる。
「おにぎりか、チャーハンか、おうどんか…スパゲッティ・ポモドーロはどうですか?」
「ほうら、真穂なら何とかしてくれると思ったわあ。」
「流石ねえ、私から見たら空っぽなのに…。」
「真穂~、私はおうどん食べたい。」
「りょうかい。チョッと待っててね。」