僕惚れ②『温泉へ行こう!』
 涙に瞳を(うる)ませて彼を睨んだら、理人(りひと)が慌てたように「ごめん、(いじ)めすぎたね」と言って頭を撫でてきた。

 私は、そんな理人を、なおも涙目で(にら)みつける。



「ねぇ葵咲(きさき)、そろそろ()れて……いい?」
 ややして、理人(りひと)に甘くおねだりされたけれど、悔しくて返事をしなかったら、「お願い」と耳元でささやくように懇願(こんがん)された。

「……ゴムは?」
 さっきのことがあるから、思わず聞いてしまってから、恥ずかしいことを口走ってしまったことに気付いて赤面する。
 私のその様子に、理人がふっと瞳を細めて微笑んだ。

「大丈夫。持ってる……」
 真っ赤になった私に、小さな四角い包みを複数個、トランプをババ抜きする時みたいに広げて見せながら、理人が言う。

「とりあえず手元に五つ。鞄に行けばもっとあるから……葵咲さえ望むなら、僕は何戦でもいけちゃうよ?」

 わざと私の緊張を(ほぐ)すかのようにそう言うと、くすくすと笑った。


 ゴムをベッドの(みや)に置くと、一旦身体を起こしてから、二人で向かい合うように座る。

 前が肌蹴(はだけ)たままは恥ずかしかったので、両手で胸元を合わせるように持っていたら、理人が正面からそんな私をギュッと抱きしめてきた。
「ねぇ葵咲、僕の帯、(ほど)いてくれる?」
 襟元(えりもと)を握ったままの私の両手をそっと外すと、自分の腰に巻きつけるように回しながらそう問いかけてくる。
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