僕惚れ②『温泉へ行こう!』
 私は、彼にギュッと抱きつく格好で、(あら)わになった自分の前を隠しながら、彼の腰の帯を解こうと一生懸命になる。
 今の状態では彼の背に回された帯の結び目が見えない上に、貝の口結びなんて日頃しない結び方だったから、思いのほかスッと()けなくて……。

 私は余りに必死になりすぎて、理人(りひと)に思い切りしがみ付くように()き出しの肌を押し当てていたことに、気付いていなかった。

葵咲(きさき)、ちょっと待って。もー、ホント、キミは何でそんなに可愛いの?」

 理人が、溜め息をつくようにうっとりと照れた声を出すと、私を抱く手に力を込める。

 そうして、大きく広がった袖口から手を差し入れてくると、背中をさわさわと()(さす)った。
 温泉浴衣なので身八(みや)つ口がなくて、そこから手を差し入れられる心配がなくてよかった、とか思っていたけれど、理人には関係なかったみたいで――。

「胸、そんなに押し当てられたら誘われてるとしか思えないんだけど?」
 耳元で、そんなことまでささやかれてしまう――。

「えっ。ちょっ、理人、ストップ! まだ、あなたの帯、(ほど)けてないっ」

 私は照れ隠しで必死になって現状を訴えるしか出来なかった。

「葵咲。キミは自分がどれだけ可愛いか、もっと自覚するべきだよ」

 理人が、名残惜しそうに私の袖口(そでぐち)から手を抜いてそう言ってきたけれど、そんなことを言ってくれるのは彼ぐらいだと思う。



 私は余りに照れくさくて、
理人(りひと)屋烏之愛(おくうのあい)って言葉、知ってる?」
< 64 / 107 >

この作品をシェア

pagetop