僕惚れ②『温泉へ行こう!』
 不安で堪らなかったところに聞きなれた声が聞こえて、ゆっくり振り返ると、正木(まさき)くんが立っていた。

 知人に出会えたという安心感で気が緩んだ私は、へなへなと脱力してその場にへたり込んでしまう。

「えっ、ちょっとどうしたんだよ!? 大丈夫か?」
 いきなり座り込んでしまった私に、正木くんが心配して駆け寄ってくる。

「ご、ごめんなさい……。ちょっと正木くんの顔見たらホッとしちゃって……」

 地べたに這いつくばったまま彼のほうを見上げてそう答えると、期せずして瞳から、涙がポロリと(こぼ)れ落ちた。

「……え? ……あ、あれ?」
 びっくりしてしまった。
 泣くつもりなんて微塵(みじん)もなかったし、こんなところでいきなり泣かれても彼も困るだろう。

 急いでごしごしと涙を拭ったけれど、一度(せき)を切ったそれはなかなか止まってくれなくて。

「とりあえず、こっちに」

 正木くんは通路の壁に(すが)るようにして崩れ落ちた私の手を引いて立ち上がらせてくれると、少し奥まった死角に連れて行ってくれた。

 さすがにあのままは誰か通りかかったら目立つし、私が恥ずかしい思いをすると気を遣ってくれたんだろう。
 壁を背にして何とか立つ私を隠すように、正木くんが前に立ちはだかってくれる。

「ごめんね」
 ややして落ち着きを取り戻すと、私は彼に謝罪の言葉を述べる。

「いや、それはいいんだけど……丸山、一人でどうしたんだよ?」
 正木くんは仁王立ちで私をじっと見据えてから、探るように付け加える。
「――彼氏は?」

「え?」
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