僕惚れ②『温泉へ行こう!』
「だから、池本さんだっけ? あの人はどうしたの?」
 丸山一人で行動してるとか有り得ねぇだろ、と言われた。

「あ、()……彼は……その、まだ寝てるの」
 それで一人で売店に行こうとしたら迷子になっちゃって……と続けようとしたら、いきなり顔の横にドン!と手を付かれた。……おまけに(あご)(つか)まれて顔を上向けられてしまう。

「え、ちょッ、何!?」
 びっくりして顔に掛けられた手を払いのけたら、「キスマーク」とぶっきら棒な口調で言われた。

「え?」
 一瞬何のことを言われたのか分からなくてきょとんとしたら、正木(まさき)くんは自分の首元を指差して「首に(あざ)」と言った。

 さっき、顔を上向けられたのは、痣を見るため?
 得心(とくしん)はいったものの、彼の台詞に私は顔が熱くなるのを感じた。

「う、うそ……」
「嘘じゃねぇよ。くっきり付いてんだろ、キスマーク」
 少なくとも昨日夕飯食いに桜庵(さくらあん)へ来たときにはなかった、と(つぶや)かれ。

 正木くんがそこまでよく私を観察していたことに驚いてしまう。

「あ、こ、これは……」
 言い訳しようにも何も思い浮かんでこなくて口ごもる。

「いや、別にさ、俺に言い訳する必要はないだろ。ただ――」
 そこで私の瞳をじっと見つめると、「その彼、本当に丸山のこと、大事に思ってるの?」と聞かれた。

 そんなことを言われたのは初めてで。

「何でそんなこと、言うの?」
 理人(りひと)が私を大切に思っていないはずがない。
 不安になるようなこと言わないでよ。
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