私を抱かないと新曲ができないって本当ですか?~イケメン作曲家との契約の恋人生活は甘い~

尋問?

 みんなが出ていき、社長と私が事務所に残った。
 社長が私の顔を見て、ためらいがちに聞いてきた。

「希は藤崎さんと付き合ってるのか?」
「いいえ、付き合ってはいません」

 私は慌ててブンブンと首を横に振った。
 そんな恐れ多いこと、あるはずがない。
 でも、社長は納得してくれなくて、つっこんで聞いてきた。

「微妙な言い方だな。本当に藤崎さんの片想いなのか?」
「まさか! あれはそういうことにしてるだけですよ! 私をかばってくれたんだと思います」
「そうだよなぁ。でも、かばうにしても、普通あそこまでするか? 結構大事にされてないか?」

 普通はしませんよね?
 社長の疑問ももっともだと思う。私でもそう思う。
 仕方なく、できる範囲で情報開示をする。
 
「……私を見ると曲のアイディアが湧くそうなんです。だから、大事にしてくれてます。実はあの件以来、藤崎さんの家にお世話になっていて……」
「マジか!」
「すみません」

 それぐらいは報告しておかないといけないかなと思って言うと、社長が額に手を当てた。思ってもみなかったようで、茫然としている。
 私が謝ると、手を振った。

「いや、意外な展開で驚いただけだ。藤崎さんがね……。この間からなにかあるとは思っていたが」

 しげしげと顔を見られる。
 そんなに見られたって、顔は変わりませんよ?

 しばらく私の顔を見つめていた社長は表情を緩めて、息を吐いた。

「まぁ、とにかくよかったな。落ち着いたみたいで。たぶん、藤崎さんに任せておけば悪いようにはならないよ」
「はい。あ、藤崎さんに連絡してみます!」

 スマホを取り出すと、藤崎さんから着信とメッセージが大量に入っていた。
 電話応対で全然気づかなかった。

『大丈夫?』9:52
『連絡ちょうだい』10:33
『手は打ったから。ごめんね』11:12
『たぶん、もうすぐ落ち着くよ』11:43
『落ち着いたかな?』12:15
『迎えに行く』12:49

(え? 迎えに? ここに?)

 ダメでしょう!と思って、慌てて電話した。
 メッセージはたった今だったから、間に合うはず。
 藤崎さんにはワンコールで繋がった。

『希! 大丈夫?』

 焦ったような声がいきなり聞こえた。
 かなり心配をかけてしまっていたみたいだ。

「すみません。さっきまで電話が鳴りっぱなしで、スマホを見れなくて。藤崎さんこそ、大丈夫ですか?」
『僕のほうは事務所が動いてくれてるから大丈夫だよ。まだ電話は来てる?』 
「いいえ、ぴたっと止まりました。藤崎さんのおかげですよね? ありがとうございます」
『ごめん、迷惑をかけたね』

 落ち込んだような声に、私はかぶりを振った。
 視線を落とした藤崎さんが目に浮かんだ。
 
「いいえ、迷惑をかけたのはこっちです。あの写真は藤崎さんが助けてくれたときのものだし。それに、なにげに新曲の宣伝になっちゃってるんです」
『そうなの?』
「炎上商法とか言われてて、藤崎さんに申し訳なくて……」
『そんなの気にすることないよ』

 あっさりと藤崎さんは言うけど、そういうわけにはいかない。
 なんとかあのスクープを否定することはできないかと考えてみる。
 
「あの写真の状況を説明する声明を出しましょうか?」
『ダメだ! それこそ炎上するよ?』
「でも……」
『放っておけば、すぐ収まるから。気をつけて帰っておいで。なんなら迎えにいくよ』
「迎えになんて、ダメですよ! それにしばらく藤崎さんのところには行きませんから」
『なんで?』

 藤崎さんが驚いたように言うから、私は思わずあきれたような声を出してしまう。

「なんでもなにも、またスクープ写真を撮られたらどうするんですか!」
『もう撮られないよ。大丈夫』
「大丈夫なわけありません!」
『そう言うなら、君の家の周りで記者に待ち伏せされてたらどうする? 一人で対処できる?』

 そう言われてグッと詰まるけど、それよりもまた新たなスクープの方が怖い。
 自分を奮い立たせて言った。
 
「私は大丈夫です!」 
『心配だからうちにおいで?』
「ご心配は有難いですが、ダメです」

 そうやって押し問答していたら、社長が代わってくれと声をかけてきた。
 藤崎さんにお礼が言いたいのだろうと思った。

「すみません、社長に代わりますね」

 藤崎さんに断ってから、スマホを社長に渡す。
 社長はスマホをスピーカーフォンにして、丁寧にお礼を言ってくれた。
 
「藤崎さん、ありがとうございます。僕からもお礼を言わせてください。睨みを効かせてくれたおかげで助かりました。うちみたいな弱小事務所じゃ、希を守れなかったかもしれない……」
『いいえ、こっちが巻き込んだようなものですし』
「いいや、もともと長谷川さんの件は僕の見通しが甘かったから起こったのに、そこでも助けられ、また今も助けてもらって、本当に申し訳ないです」
『気にしないでください。僕がやりたくてやってることです』
「それでも有難いです。だけど、しばらく希と会うのは控えたほうがいいと思うんです。これ以上、ネタになることはしないほうがいい」
『……』

 社長もやっぱり私と同じ考えだった。
 普通に考えて、そうよね。
 それを言いたくて、社長は代わってくれと言ったようだ。

『でも、希を一人にして、なにかあったら……』
「大丈夫です。希にはタレント用に確保してあるセキュリティばっちりのマンションに泊まらせるようにします」

 社長が言ってるのはTAKUYAが住んでるマンションのことだ。
 確かにあそこだったら、入口に管理人がいて、不要な人を通さないし、エレベーターはカードキーがないと乗れない。部屋もいろんな人がちょいちょい使っているから、家具も日用品もあるはずだ。
 あそこなら、自分のアパートに帰るよりも安心だわ。
 社長の気づかいに感謝する。

「こちらでしっかり希をガードしますので、藤崎さんはご心配なさらず」
『……わかりました』

 社長に言われて、ようやく藤崎さんも納得してくれたらしい。
 スマホを返してもらって、もう一度、藤崎さんに謝った。

「本当にすみませんでした。私は大丈夫なので、藤崎さんは気にしないでください」
『希が謝ることはないのに』

 藤崎さんは溜め息をついた。
 
 電話を切ってから、社長がマンションの手配をしてくれる。

「着替えは経費で請求してくれていいから、買ってこい。念のため、しばらく家には帰らない方がいい」
「わかりました」
「ちょうどTAKUYAの隣りの部屋が空いてる。なにかあったら、TAKUYAを頼ったらいい」
「私はTAKUYAのマネージャーなのに、頼る方向が反対ですよ」

 苦笑して言うと、それもそうだと社長も笑った。

 それから私たちは仕事に戻った。
 午前中がつぶれちゃったから忙しい。多忙な社長にも申し訳ない。
 私は新曲の取材申込があったところにコールバックし始めた。


 他の人達がお昼から戻ってきたところで、入れ替わりにお昼休憩にする。
 といっても、外食する気分じゃないから、コンビニでおにぎりとお茶を買ってきて、打合せコーナーでモソモソと食べる。
 気分直しのデザートにシュークリームも買ってきた。
 外に出るとき、ちょっとドキドキしたけど、藤崎さんのおかげで、マスコミ関係はいなかった。

(あー、やっぱりコーヒーも買ってくればよかった。でも、もう一回出かけるのも面倒くさいしなぁ)

 なんて、思っていると、目の前に缶コーヒーが置かれた。
 魔法のようでびっくりする。
 すると、先輩社員の木崎さんと野上さんが目の前のイスに座った。

「ありがとうございます……?」

 なんだろうと思って、首を傾げる。
 二人とも普段から気安く話しかけてくれる頼れる先輩だ。

「希ちゃんってさー、藤崎さんと本当になんでもないの?」
「冷静に考えたら、藤崎さんがあんなコメントまで出して、身を呈して守るっておかしいなーと思って」
「TAKUYAの新曲もえらくすんなりもらえたよね? それに前にここまで車で送ってもらってなかった?」

 彼らは口々に問い詰めてくる。
 そういえば、木崎さんには藤崎さんに送ってもらったところを見られたことがあった。

(どう答えよう?)

 社長がちょうどお昼に行ったタイミングで助けを求めることもできない。
 事務所中が耳をすませているのを感じる。

「実は……私を見てると曲の発想が湧くって、かわいがられているんです」
「はっ? なにそれ?」

 当たり障りのないところを言うと、二人とも想像もしていなかったようで、意表をつかれた顔をした。
 でも、野上さんはすぐ、うんうんと頷いて言った。

「なるほど。希ちゃん、かわいいもんなぁ。気持ちはわかる」
「なんだよ、野上、希ちゃん狙いか?」
「いや、そうじゃなくて、動きが小動物みたいだろ?」
「あー、それはわかるかも。なんかちょこまかしてるよなー」
「この男ばっかのムサイ職場の癒やしっていうか……」

 なんだか話がおかしな方向に行っている。
 私って、そう見られてたんだ……。なんだかショック。
 普通に働いてるだけなんだけど。まぁ、私が一番下だから、先輩たちにかわいがられてるのは確かだけど。

「かわいがられているって意味深なんだけど?」

 今度は他の先輩からの質問が飛んできた。
 私はつっかえながら説明した。

「えっと、だから、付き合ってるとかないし、熱愛なんて恐れ多いし、藤崎さんの片想いっていうのは全くのデタラメなんです。ただ、ちょっと親しいというか、一緒にご飯食べたり、ケーキを買ってもらったり……」
「ご飯にケーキ……。餌付けか」
「なるほどねー」

 餌付けって、まるでペットか動物みたいな扱いで頬を膨らませる。
 それを見て、野上さんが「いい意味で、いい意味で」と笑うけど、どういい意味でなのよ!
 他にもどんどん質問が飛んでくる。

「藤崎さんがマジってことはないか?」
「ないです、ないです!」
「でも、普通あそこまでする?」
「う~ん、藤崎さんですし、私にはなにを考えてるのか、わかりません。でも、藤崎さんが私に片想いなんて、あると思います?」

 私が本心でそう言うと、「まぁ、ないよなー」と先輩たちは苦笑した。

「この様子は本当にないんだろうねー。少なくとも希ちゃんの方は」
「これで藤崎さんが本気だったら、マジで気の毒だな」
「だから、そんなのあり得ないですって!」
「ふーん、なんかちょっと残念だなぁ」

 つまらなそうな顔でみんな席に戻っていった。
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