あなたに、キスのその先を。
日織(ひおり)さん、これは一体どういう意味(こと)ですかな? 貴女は修太郎(しゅうたろう)ではなく、健二(けんじ)許婚(いいなずけ)だったはずだ」

 天馬(てんま)氏の声はあくまでも穏やかだ。それなのに、なぜかとても威圧感があって、私はなかなか声を発することが出来なかった。それなのに、気持ちばかりが焦ってしまう。

「……も、申し訳ありませんっ。私っ、その……修太郎さんとお仕事をさせていただくうちに……どんどん彼のことを好きになって……それで……離れたくないと思うようになりました」

 怖い、という気持ちが、思わず(しょ)(ぱな)に謝罪の言葉を(つむ)がせてしまったことに、私は心の中で後悔する。

 確かに許婚(いいなずけ)がいる身でありながら、他の男性に心惹かれて……あまつさえその方とお付き合いを始めてしまうなんて、あってはいけないことです。でも……それでも修太郎さんとの関係を“悪いもの”だと自分自身で認めたみたいになってしまったのは、何だか釈然としなくて。

(修太郎さん、ごめんなさいっ)

 心の中でそっと謝ると、修太郎さんが私のほうを見て、大丈夫ですよ、と言ってくださっているみたいに、小さくうなずかれた。

 そして――。
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