あなたに、キスのその先を。
 そういえば――。

 お風呂のことをお聞きした際、お母様が「今日は特別な日」だとおっしゃったこと、それから出がけにお父様が、付け加えるように「良かったな」、と声をかけて下さったことをふと思い出しました。

 私はどちらのお言葉も深く考えず、「許嫁(いいなずけ)の方の御宅への、初めてのお泊まりという特別な日」で、「修太郎(しゅうたろう)さんとデートできて良かったな」だと勝手に解釈してしまっていました。

 でも、今思えば、どちらもこの事を指していらした気がします。

「私だけ知らなかったの、なんか悔しいです……」

 気が付いたら、私はポツン……とそんな風に恨み節を吐き出してしまっていました。

 修太郎さんはサプライズを狙っていらしたのですから、私だけ気付いていなかったのはある意味成功だと分かっています。分かってはいるのですが……。それでも修太郎さんのお考えを知るのは私が一番でいたかったという……そんなモヤモヤした思いが心の中で渦巻いて。

 そう、この気持ちは……。

「……ごめんなさい。ただのヤキモチです」

 (うつむ)いたまま小さくつぶやいたら、
日織(ひおり)さん、僕のために嫉妬して下さって、本当に有難うございます。不謹慎だと分かっていますが、今、僕はとても嬉しいです」

 ペンを持って婚姻届に向かったまま動きを止めてしまった私を、修太郎さんが後ろからギュッと抱きしめてくださいました。

 ずるいです、修太郎さん。私、それだけでモヤモヤが晴れて、嬉しくて堪らなくなってしまいます……。
< 274 / 358 >

この作品をシェア

pagetop