あなたに、キスのその先を。
 結局、私は本題を伝えるのに必死で、せっかく健二(けんじ)さんと初めて会話できていると言うのに、近況報告やこちらの思いなど、何ひとつ話すことができなかった。
 ただ、健二さんも、私の言葉に相槌(あいづち)を打つばかりで、御自身のことをお話してはくださらなかったので、この件に関してはおあいこかな?と思う。

 歓迎会に行ってもいいかどうかを問いかけた私に、健二さんは、

『貴女が行きたいと思うなら行くべきです。でも、嫌ならちゃんとお断りしてください。俺は日織(ひおり)さんの意思を尊重します』

 とだけ答えてくれた。

 それは投げやりな感じの言い方ではなくて……本当に私自身に決断を(ゆだ)ねてくださっているのが分かる口調だったので、私は素直にうなずくことが出来た。

「では、せっかくなので行って参りたいと思います」

 深呼吸をしてそう言うと、『分かりました。行くからには目一杯楽しんで。《《係長さんによろしく》》ね』と返事があった。
< 32 / 358 >

この作品をシェア

pagetop