あなたに、キスのその先を。
 途端、林さんが笑顔になって、私の前に置かれたメニューをパラリとめくって、サワーと書かれたページを開いてくださった。

「この辺ならジュースみたいに甘くて飲みやすいって女性たちにも評判っすよ」

 見ると、色鮮やかな飲み物の写真がたくさん載ったページで。

 アップルサワー、ピーチサワー、マンゴーサワー、ピンクグレープフルーツサワー、カルピスサワー……等々。

 私は大好きな(ピーチ)の文字に()かれて、「じゃあ、ピーチサワーを飲んでみようと思うのですっ」と言っていた。

「……無理、していませんか?」

 隣から、塚田(つかだ)さんの心配そうな声が掛かったけれど、私はドキドキを誤魔化すようにメニューから視線を外さないまま、わざとらしいくらい元気に答える。

「だ、大丈夫なのです! 私、よく考えてみたら薬膳酒(やくぜんしゅ)なら子供の頃から結構飲んだことがありますし、お酒の経験値、全くのゼロじゃなかったのです! 今日は、ほんの少しだけレベルアップをはかってみたいと思います!」

(最初はちょっぴり口に含んでみるだけ。危ないって思ったら、すぐに飲むのやめるのです)

 そう、思いながら。
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