私のおさげをほどかないで!
***

 バッグの中でピロンとメッセージアプリが新着メッセージの着信を知らせてきて、途端「奏芽さんかな?」とソワソワする。
 なのにモコモコに着込んだ服と、手袋のせいでうまくカバンからスマホが取り出せなくて。

 あーん、と思いながらも片手だけ手袋を外してスマホを操作したら、瞬く間に指先が冷えてかじかんだ。

凜子(りんこ)、バイト、何時に終わる?〟

 でも、不思議と奏芽さんからのメッセージを見ただけで、心はほかほかと温まって。

〝21時には終わると思います〟

 手に一生懸命温かい息を吐きかけながら返信をしたら、すぐに既読がついた。

 奏芽さん、お仕事大丈夫なの?
 まだ診察中のはずなのに。

 そんなことを思いながらも、隙間時間を見つけて奏芽さんが私に時間を割いてくれることが嬉しくて、ついつい頬が緩む。
 以前の私ならこんな不真面目なことを許せるなんてあり得ないと思う。恋ってある意味怖い。

 よし、私も頑張らなきゃ。

 17時を過ぎると、辺りは薄暗くなっていて。
 ちらほらと街灯が灯り始めた住宅地のなかを、うねるように突っ切る道は何となく寂しくて、私は早く大きな道に出ないと、と気が急く。

 バイトを始めた頃――昨年の5月初旬頃――は18時を過ぎてもまだ明るかったし、当然のこと、そこから夏に至るまではもっともっと日が長くてバイトへ向かう際、道の薄暗さに戸惑うことはなかった。
 帰りは、何だかんだ言ってシフト時間のかぶる谷本くんがアパート付近まで送ってくれたりして怖さを感じなくて。
 でも、さすがに彼氏が出来たと分かってからは谷本くんもそういうのは控えてくれて、私も奏芽さんが送り迎えをしてくださるから基本的には大丈夫だったんだけど。

 ここ数ヶ月はこんな風に奏芽さんと会えない夕刻が少し不安に感じることが増えていた。
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