私のおさげをほどかないで!
 前に谷本くんが、「最近この辺不審者が出るらしいから気をつけて」って言ってくれたのをふと思い出してしまった。
 何も今思い出さなくても!って思ったけれど、後の祭り。

 思い出した途端怖くなって、私は急いでさっき外したばかりの手袋をはめると、半ば小走りに歩き出した。

 と、後ろから足音がつけてくるような気がして――。

 気のせい、気のせい。

 念じるように頭の中でその言葉を繰り返しながら、結局最後にはかなり本気で走って、やっと国道沿いの道に出た。
 たくさんの車が通る明るい往来にホッっとして、ふと今通って来たばかりの路地を振り返ったけれど、当然だよね。誰もいなかった。

 やっぱり気のせい。
 変なことを考えてしまったから、不安になっただけよ。

 私はそう思いながら、すぐそこのバイト先――セレストア(コンビニ)の敷地に足を踏み入れた。

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