私のおさげをほどかないで!
 まぁ、もちろん彼自身が言う通り、(おおむ)ね……それこそ十中八九鳥飼(とりかい)さんのせいなんだけど……それでも知らん顔をすることもできただろうに。

 そう思ったら、少しだけ眼前のチャラ男のことを見直したい気分になった。

「あ。そうなんですね。うちの店員がご迷惑をお掛けしたんじゃなくて安心しました。……向井さん、とりあえずレジも詰まってるし、頑張ってこなしてね。――鳥飼先生、いつも贔屓(ひいき)にしていただいて有難うございます」

 店長は鳥飼さんの説明に得心したようにすぐに引き下がってくれた。

 っていうか店長、彼の名前知ってた。
 やっぱりこの人、結構な常連さんってこと?

 思いながらも、せっせとカゴから商品を取り出してはレジを通していく。
 本当、少しでも早く終わらせないと。


***


 結局、一番大きいサイズの袋に3袋分の買い物を済ませると、彼はそれを電子決済でさらりと支払って、「じゃあね、向井ちゃん、また来るね」と手を振って去って行ってしまった。

 鳥飼さんの買い物、案外袋詰めしてみると(かさ)自体はそれ程にはならなかったのだけれど、細々とした小物が多くてとにかく品数がすごかった。
 彼が受け取らなかったレシートの長さがそれを物語っているようでゾワっとする。

 ホント何だったの、あれ。

 次のお客さんの、お弁当とお菓子とお茶だけの――いわゆる普通の品数のお買い物を処理しながら、私はドッと疲れが押し寄せてくるのを感じていた。

 コンビニであんな大量に買い物する人、初めて見た!
 だってコンビニって基本、割高だよ?
 あの人、絶対金銭感覚狂ってるでしょ。

 なんて思ってしまったのは……私がしがない貧乏女子大生だから?
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