ママになっても、極上ドクターから独占愛で迫られています
「話があるんだけど」

 自分がどんな表情をしているのか鏡を見ないとわからないけれど、蒼さんの反応からして相当深刻さを醸し出していたのだろう。

 蒼さんが小さくうなずいてソファに腰掛けたときだった。座ったばかりのソファから立ち上がり、ズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。

「悪い。病院からだ」

 私が返事をする前にリビングを出て自室へ姿を消す。

 守秘義務とかあるだろうから、私の前で電話ができないのは仕方ない。

 出鼻をくじかれてソファに腰を落とし、ぼんやりと虚空を眺めた。

 久し振りに太陽の光をたくさん浴びてちょっと疲れたかも。このあと仕事をするなんて、蒼さんってスーパーマンだ。

「みちる、すまない。急患だ」

 リビングに戻ってきた蒼さんの声と表情から、『申し訳ない』という感情がひしひしと伝わってくる。

「うん、わかった」

 これ以外に掛ける言葉が見つからない。頑張りすぎている人に『頑張って』は違うと思うし。

 口角を引き上げて笑顔を作ると、蒼さんの眉が更に下がった。

「みちる」

 スタスタと歩み寄った蒼さんに手首を握られて、心臓がビクッと跳ねる。

「話はまた今度でいいか……」

 最後の言葉は、唐突に塞がれた唇のなかに吸い込まれて消えた。
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