一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい

前進

ゴールデンウィークも変わることなく毎日のお散歩に出ると今日も匂いを嗅ぎ分けたのか外周へ向かうキキ。

「キキ、原島さんがいるの?」

私は声をかけるがききからの返事はない。
けれどこの尻尾の振り方はきっとそういうことなのだろう。

噴水を通り過ぎ、公園の外周を回るコースへ出るとちょうどジョギングしている原島さんに会えた。

「由那ちゃん、キキ。おはよう。さ、行くか?」

そういうとすぐにリードを持ち原島さんはキキとジョギングに向かった。

汗ばむ季節になってきたにもかかわらず彼の額に汗が滲んでいるがそれさえも爽やかだった。
原島さんはTシャツにハーフパンツという普通のジョギングスタイルにも関わらず、周囲の人から目を引くのは彼の見た目の良さだろう。
180センチはありそうな背の高さに筋肉のついた長い手足、顔は整っており公園で話しかけられなければ街にいても絶対に私は近づかないだろう容姿。最初にキキが近寄らなければ決して私からは近寄れなかったであろう見た目に、周りでジョギングしている女の人たちからの視線が痛い。

いつも通りベンチに座って待とうと思うが日差しが出てきて木陰に移動した。

「お待たせ!」

息を切らしながら帰ってきた。

「はい、お帰りなさい」

ペットボトルを渡すとごくごく飲み始めた。

「いつも買ってもらって申し訳ないな」

「私が走れないのでキキと走ってくれるだけで私は助かるんです。だから気にしないでください」

「でも毎回となるとさ。由那ちゃんは今日予定ある?ランチでもご馳走させてよ」

「そんなこと気にしないでください」

「いや、もし由那ちゃんが暇なら付き合ってくれない?ゴールデンウィーク中も仕事があって、休みは今日と明日しかないんだ。けど予定もなくてさ」

笑いながらそんなことを言う原島さん。
原島さんなら声をかけたら誰でもすぐに駆けつけてきそうなのに、と思っていると更に話し始める。

「ここでしか会わない俺に誘われたら怖いよな。ごめん。つい由那ちゃんにお礼のつもりで誘ったけど迷惑だったよな」

「いえ。迷惑だなんて、そんなことはないです。嬉しいです。でも……原島さんなら誰かに声をかけたらすぐにかけつけてきてくれそうだなって思ったんです。ゴールデンウィークも予定がぎっしりかと思って意外だな、と」

「仕事の関係でギリギリまで予定が立たなくてさ。それにどこに行っても混んでるからのんびりしようかと思ってたんだ。でもプライベートが何もなさすぎてちょっと情けないなと思って」

「私なんてカレンダー通りの休みなのに情けないことに予定が1つしかないですよ。私の方が充実してないですよ」

苦笑しながらそう答えると原島さんは笑っていた。

「ならランチを奢らせて。せめて美味しいものくらい食べて満喫させて」

「じゃ、私も充実した祝日にします」

「よかった。じゃ、駅に11時半待ち合わせでいいか?念のため連絡先の交換をしないか?」

「はい」

私たちはスマホを出し、連絡先を交換した。
キキは隣で大人しく座っており、私たちの会話を聞いているかのようで尻尾がパタパタと楽しげにリズムを打っていた。
後でまた会う約束をすると一度分かれ、帰宅した。
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