一途な外科医は彼女の手を繋ぎ止めたい
家に着くと玄関で一気に力が抜けて、靴を脱がずその場に座り込んでしまった。

どうしよう……
原島さんと約束しちゃった。
心臓がドキドキしていて、顔がほてっているのがわかる。
キキの首に抱きつくと、驚いたような表情を浮かべた後、私の顔をペロペロと舐めてくれる。

どうしよう……
原島さんと出かけるなんて思ってもみなかった。
キキがいないのに私が隣に並んでいていいのかな。

どれだけ玄関に座り込んでいたのだろう。
おばあちゃんが不思議がってリビングから出てきた。

「由那ちゃん、どうしたの?朝ごはんにするわよ」

「あ、うん。今入るところ」

私は真っ赤になっているであろう顔をキキの陰に隠し返事をした。
キキの足を洗い、ブラシをかけてから家の中に入る頃にはだいぶ落ち着きを取り戻していた。

朝ごはんを済ませると汗をかいたのでシャワーを浴び、部屋へ戻った。

何着て行こう。
私はいつも散歩でしか会わないのでデニムにTシャツ、パーカーという姿が多い。反対に原島さんは走る格好のためTシャツにハーフパンツばかり。
普段の原島さんはどんな格好してるんだろう。
ランチってどこに行くんだろう。
きっと気を遣って、あえて夜ではなく昼間の食事を誘ってくれたのだろう。初めてちゃんと会うのに、いきなり飲みに行くのはやはり怖い。原島さんを見ている限り大丈夫だとは思っても夜会いましょうと言われるより安心感がある。そういう配慮ができる男性だというだけで好感が持てる。

原島さんがラーメンとか食べる姿は想像できない。きっとおしゃれなお店にばかり入ってるんだろうな。
そう思うと余計に何を着ていけばいいのか悩む。
何度も何度もクローゼットから洋服を出し、鏡の前で悩んだ。
悩んだ末、この前お兄ちゃんに買ってもらったシフォンの半袖カットソーにワイドパンツ、長めの丈のカーディガンに決めた。
ラフすぎないし、夜じゃないから服装もそこまでこだわるところにいかないだろう。

お兄ちゃんに買ってもらったこの服は私も気に入ってるし、原島さんの隣に並んでもおかしくないとは思う。もし変な顔されたら彼とは合わないってことだろう。
時間も余裕だと思っていたはずが気がつくとギリギリになっていた。
私はおばあちゃんにお昼を友達と食べるから出かけてくると伝え、急いで家をでた。

さっきよりも日差しが高くなり暑くなっていた。
早足で駅に向かうと少し額に汗をかいてしまい
慌ててハンカチで押さえた。
シャワーも浴び、ちゃんと化粧もしてきたのに、と思っていると後ろから声をかけられた。
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