冷徹弁護士、パパになる~別れたはずが、極上愛で娶られました~

 その後も結局父が母に歩み寄ることはなく、不倫相手も交えた修羅場を何度かくぐり抜けた後、両親は調停によって離婚が成立した。

 お世話になった弁護士はエネルギッシュな若手の女性で、相場より高額な慰謝料を父に支払わせるなど尽力してくれたが、弱り切った母の心については少々無頓着だった。

『実は、私もバツイチで子どもを育てているんです。頑張ればなんとかなります! この離婚はプラスととらえて、前を向きましょう!』
『ええ。そうですね』

 拳を握って力説する弁護士に、母は曖昧に笑っていた。

 しかし、その時の母はもう、頑張っても前を向ける状態ではなかったのだと思う。

 日常生活を送ることはできたが、徐々に自分でなにかを決断することができなくなり、俺を頼る場面が増えていった。

 弁護士という職業は法律をベースに動くのだろうが、クライアントは人間だ。その心情を汲むことも大切だろう。

 両親の離婚問題で痛切にそれを感じた俺は、人の気持ちに寄り添う弁護士を志すことを決める。

 勉強は決して楽ではなかったが、徐々に激しくなる母の束縛に戸惑っていた時期でもあったので、将来の目標があることに救われていた。

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