冷徹弁護士、パパになる~別れたはずが、極上愛で娶られました~

 当時はまだ弁護士になるつもりはなかったが、相手の不貞行為を理由に慰謝料を請求できるという知識程度ならあった。

 金をふんだくったくらいで気が晴れるとは思えないが、愛情のない相手と一緒に暮らし続けるよりはいい。

『至……。そうよね、別れた方がいいのよね。でも、一度は一生添い遂げると決めた相手。幸せな時もあったのよ』
『そりゃそうかもしれないけど、今はどう見たって』

 アイツは母さんを愛していない――。喉元まで出かかったが、実際に口にすることはできなかった。息子の俺まで、母を傷つけたくなかった。

『心配してくれてありがとう、至。でもまずは、お相手の女性に会って、お父さんと別れてもらえないか頼んでみる』

 母はそう言って気丈に笑い、俺には『早く寝なさい』と促した。

 俺は多感な中学生時代ということもあり、父に対して心の中で〝あんなヤツ死んでしまえばいいのに〟と思ったことも、一度や二度ではなかった。

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