冷徹弁護士、パパになる~別れたはずが、極上愛で娶られました~

「芽衣ちゃんの気持ちはわかった。もう、こういうこと言って困らせるのはやめる。……けど、たまにカウンセリング室に行くのはいいよな?」

 頼りない目をして、崎本くんが問う。私への特別な感情とは別に、彼はやっぱり心のケアを必要としているのだ。

「もちろん。たまにじゃなくて、なにか吐き出したかったらすぐに来て」
「ありがとう。……じゃ、帰るわ」
「暗いから気をつけてね。広い道を通って帰りなさい」

 アパートの階段を下りていく崎本くんを見送り、室内に戻る。

 成優に「ごめんね! オムライスすぐ作るから」と謝って、それからはいつも通り、家事と育児に追われる忙しない日常だった。

 しかし、崎本くんに『今でも別れた娘の父親を愛している』なんて宣言をしたせいか、ベッドに入って眠る直前になって、頭の中に至さんと過ごした記憶が浮かんでは消える。

 無理やりに成優の隣で目を閉じると、胸の奥に負った当時の傷が、鈍く疼いた。

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