記憶喪失の妻は一途な夫(外科医)に溺愛される
「なつかしいなー」
過去の写真を見ながらこんな風に話ができる日が来るとは思っていなかった。


心の奥にずっと閉じ込められていた私が、泣いて喜んでいる。
温かな感情の奥に、安心を感じる。

これはとても不思議な感覚で、うまく言葉にして紫苑には伝えられないけれど、明らかに記憶を失っている間の私も、記憶を失う前の私もずっと一緒だった。

改めてそう気づかされる感覚。

「この時、紫苑はカフスを忘れてきて、テープで止めたんだよね。」
「そうそう。せっかく桐乃が買ってくれたカフスなのにさ。」
「そうだよー」

こんな思い出話すら幸せな思いで。
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