一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
 ――『一応』って。わかってるけど、好きでもない相手と形だけの結婚をして、この人は満足なの?

 自分のいいなりになる妻がほしいのだから、きっと満足なのだろう。
 私にはわからない感覚だけど……

「なにかご用ですか?」
「覚えてないのか? この間、見合いの席で言っただろう? 次は二人でと言ったはずだ」
「でも、予定とか……。私、働いていますし」
「は? 働いてる? この小さいデザイン事務所で働いているからって、なんだんだ?」

 啓雅さんは口元に手をやり、笑いをこらえる仕草をする。

「どう考えても、君が俺に合わせるに決まってるだろ」
「そんな! 横暴です!」
「君を買ったのは誰だ?」

 暗闇に低い声が落ちる。
 足がぐらぐら揺れて、倒れそうになった。

「誰だ?」

 啓雅さんは私の口から言わせて、誰の持ち主なのか、はっきりさせようというのである。

「啓雅さんです……」
「そうだ。さっさと行くぞ。時間が無駄になる」

 道にタクシーを待たせてあり、行き先も言わない。
 けれど、私は逆らえず、タクシーに乗るしかなかった。

「ホテルのフランス料理を予約してある」
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