一目惚れ婚~美人すぎる御曹司に溺愛されてます~
 そういえば、本名を聞くのを忘れていた。
 今思えば、リセというのはモデルの時の名前で、フルネームもまだ知らない。
 婚姻届を書いた時は必死すぎて、ちゃんと隣の欄を見ていなかった。

「リセの本名って……」

 聞こうと思った瞬間、『Lorelei(ローレライ)』の文字が浮かぶ巨大スクリーンが目に入った。
 信号待ちの車の中から、見えたスクリーンに、ローレライの美しい姿が写し出された。

「あれがローレライの新しいCM……」
「ああ。デジカメのCMだな。メーカーからぜひって言われて決まった」

 青い海を背に風を受け、長い髪をなびかせるローレライ。
 ワンピースは海と同じ色をしているのに、その存在感は海に負けない。
 歩くとワンピースの裾が波のように揺れる。
 耳のイヤリングとネックレスは氷の粒を模したデザイン。
 彼女の温度を感じさせない姿は、まるで海の妖精。

「あっ! リセ!?」

 そして、リセが現れる。
 対比した存在の二人。
 ローレライの氷を溶かす炎は赤。
 赤い炎が――最後まで見届ける前に、信号が赤から青に変わって、車が動き出してしまった。

「リセも見たかったのに」
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