政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「近……づかない?」
「苦手なんだろう? 特に男が」
 こくん、と浅緋は頷く。

「片倉は知ってたよ。だから気をつけろと言われていたし、……俺は……、あなたを怖がらせるなと散々言われて……」

 そうだ……散々言われていた。
 なのにこの状況はどうしたことだろうか。
 これは完全に片倉に怒られるやつなのではないだろうか。

 片倉を怒らせたくはない。
 なぜなら、本気で怒ると怖いからだ。

「怖がってただろ?」
 そっと、槙野は浅緋に聞いてみた。

 『怖いです』と言われたら、怒られること決定だ。

 けれど、その質問に対して少し考える様子を見せた浅緋は、何故かふわりと槙野の頭を撫でたのだ。

「おい……どういうつもりだ」
 この流れで槙野の頭を撫でるというのは、どういう選択肢なんだろうか。
 全くもって、どういうつもりなのかがさっぱり分からない。

 けれど、その手には性的なものは一切なくて、むしろ出来の良いペットを褒めるかのような……。

──くっそ……お嬢まで、犬扱いかよ。
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