政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 食事をする料亭はお葬式の時も精進落としをお願いした先でもあり、片倉と浅緋が席につくと、着物姿の女将が挨拶に訪れた。

「園村様のお嬢様、この度は……お悔やみ申し上げます」
「恐れ入ります」
 女将に丁寧に頭を下げられ、浅緋も頭を下げた。

「けれど、片倉様とお嬢様が懇意にされているとは存じませんでした」

 それはそうだろう。
 浅緋だって、寝耳に水の話だったのだから。

「僕は園村様にお嬢さんをお願いしますと、生前からお願いされていましたが……。浅緋さんはとても素敵な方ですし、僕はお嫁に来てほしいとお願いしているところなんです」
 そう言って、片倉は穏やかに笑った。

「まあ……」
 女将の顔が華やかになる。

「良かったわ。園村様がお亡くなりになったのはとても残念なことだけど、ご結婚はとても素敵なことですわね。お嬢様も頼り甲斐のある旦那様がお出来になるのだし、安心ですね。それは、おめでとうございます」

 浅緋は一瞬怯んでしまった。
 片倉は全く抵抗なくお嫁に来てほしい、と言ったけれど、本当にそれでいいのだろうか?
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