政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「浅緋さん、泣くのならどうぞ僕の胸で。あなたはもう1人で泣かなくていいんです」

 片倉は浅緋の手を離してそっと抱き寄せる。
 おずおずと遠慮がちに浅緋の手が腰に回ったのが分かった。

「泣きません」
 そう言った浅緋の身体を片倉はきゅうっと抱きしめる。

「本当? それは残念だな。ハンカチになりたかったのに」
「慎也さん……」

「ん?」
「私に甘いです」

「それはもちろん。たくさん甘やかしたい。浅緋さんが甘えてくれたら、僕は嬉しいんです。だから甘えて?」
 片倉には胸の中の浅緋がとても愛おしい。

「あの……じゃあ、いいですか?」
 小さな声で浅緋が発したその一言を、片倉は聞き逃さなかった。

「なんでも」
 片倉の背が高いから、胸の中にいて話しかけているだけなのに上目遣いになってしまう浅緋に片倉は胸を打ち抜かれそうだ。

 どんなおねだりにも応えるつもりだった。
 浅緋はとても言いにくそうにしている。

 そんな表情も可愛い。片倉はついそのつるりとした頬に指を滑らせてしまう。
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