政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 そうやって池田に太鼓判を押されて、浅緋はとても幸せな気持ちになったのだった。

「華さん、ありがとう。私、勇気を出したの」
「うんうん」

 もしかしたらこの2人ならばいつかは幸せになったかも知れないが、もしも自分のアドバイスがその一助になれたのならよかった、と池田は思ったのである。

 浅緋は背中を押してくれた池田に認められたような気がして、ふんわりした幸せな気持ちで、社長室にコーヒーを持って行った。

 槙野にはお茶を……と言われたけれど、槙野も、片倉もコーヒーが好きだからだ。

「失礼します」
と中に入ると、片倉が社長席に座っている。

「あら? 槙野さんはいらっしゃらないんですか?」
「すぐ、戻ってくると思うけど」

 皮張りの椅子にゆったりともたれて座る片倉は、そこに座っていても違和感がない。
 もともとは父のいた場所だったけれど、そこに片倉が座ることに浅緋は抵抗ないことを実感した。

「今日はこの会社のメンバーと食事に行かなくてはいけない……」
「遅くなりますね」
< 206 / 263 >

この作品をシェア

pagetop