政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 槙野に言われて、浅緋はかしこまりました、と返事をした。

 役員たちが出ていったあと、みんな一斉にため息をつくのが分かる。神経を使ったのはもちろんだが、片倉を初めて見た人たちも多かったのだ。

 池田がとことこっと浅緋の方にやってくる。小さな声で浅緋に聞いた。

「ねえ? あの人が片倉さんよね。浅緋ちゃんの婚約者なんだよね」
「はい」
 にこりと浅緋は笑う。

「素敵な人だし、浅緋ちゃんにすごくお似合いだし、やっぱり浅緋ちゃんのこと大好きだね、あれは!」
 うん!と池田は頷く。

「ほんとですか⁉︎」
 浅緋のあまりの反応のよさに、池田は目を見開いて驚いてしまったけれど、にこりと浅緋に向かって笑った。

「うん。途中までは仕事の話をしていたみたいだったけど、もう途中からは浅緋ちゃんのことしか見ていなかったよ」
 浅緋は仕事に夢中になっていたから分からなかったのだ。

「そんな風に言っていただけると嬉しいものなんですね」
 はにかむように笑う浅緋はとても可愛らしい。

 池田はきゅっと浅緋の手を握った。
「愛されてるよ、浅緋ちゃん」
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