政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
 父はいわゆる入婿だった。
 その手腕を母の父、浅緋にとっては祖父になるが、その祖父である園村に認められ、会社の代表となり、母と結婚したのだと聞いている。
 やり手ではあるのだが、ワンマンでもあった。

 その父が亡くなることで、母と浅緋は我儘に振り回されずに済むけれど、会社のこともあるし、今後のことがどうなるのかは、まだ母も浅緋もピンときていない。

 とにかく顔の広かった父のお葬式は盛大で、人に溺れるようになりながら、取締役達や、秘書や会社の総務の手を借りて、ようやくお葬式を済ませたような次第である。

 帰ってきてやっと、息が継げるようになった気がした浅緋だ。

 その時、ピンポンと玄関の呼び鈴がなる。
 来客については、お手伝いさんの澄子さんが出てくれるので、特に気にしていなかった浅緋だったのだが。
「奥様、お嬢様……」

 澄子さんは困ったような顔でリビングに戻ってきた。
「お客様なの? 今日はお断りして下さる?」
 母が疲れた顔で首を傾げる。

「ええ。一旦お断りしたんですけど、ご主人様からの文書を預かっているので、どうしてもお会いしたい、と」
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