政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「文書?」
 はい、と答えた澄子さんは手に持っていた封筒を母に手渡す。
「あの人の字だわ」

 横から浅緋も覗いてみた。
 間違いなく父の字だ。独特の癖があるのですぐ分かる。

 その封筒にはいたく大きな字で『遺書』と書かれていた。
 父らしくて笑ってしまう。

 弁護士からは正式な遺言書があることは聞いていた。後日それについて話があるとも聞いている。

 しかし、その文書はどうもそれとは違うようだ。

「どなた?」
 穏やかな母の声が澄子さんに尋ねる。

「それが……」
 澄子さんはおずおずとお客様から預かってきた名刺を差し出した。

『グローバル・キャピタル・パートナーズ
代表取締役 片倉慎也』

「浅緋、分かる?」
 浅緋はふるふるっと首を横に振った。

 父の手伝いのため会社には行っていたけれど、浅緋にはたいした仕事が与えられていた訳ではない。

 むしろ、表に出されるようなこともなく、会社内で細々とした業務をしていた。
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