政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「はい……」
『あの』とはどういうことなのだろうか?
「あの……?」

「やり手でも有名なんだけど、若くして頭も良くて、お金も持っているし結婚したい男性ナンバーワンとも言われていて……」
 浅緋が緩く首を傾げたので、同僚は口元を押さえられている。

「ま、でも今は園村さんの婚約者なんだもんね!」
「はい……」

 そんなに有名なのだとは思っていなかった浅緋だ。確かにあのマンションはすごいとは思ったけれども。

片倉自身も有名だなんて、浅緋は思っていなかった。
 
「今回社長が就任する時にベンチャーキャピタルの資本が入ると聞いて、もう私たちみたいのはクビかなーなんて話していたんだけど、社長はとてもイケメンでやり手だし、そうならなくて良かったねって言っていたところだったの。でも園村さんが片倉さんの婚約者なら、なおさら安心よね」

 浅緋にはよく分からない。
 片倉は浅緋から見てビジネスの件と、浅緋のことは切り離しているように見えるからだ。

 自宅にいても、仕事の話が出ることはほとんどない。
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