政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「はい。園村社長には……入院される少し前にお会いして、ビジネスのお話をさせていただいていました」

 一瞬俯いた彼は再度顔を上げて、真っ直ぐに浅緋と母を見た。
 そのキリリとした顔に、浅緋は場違いなことにドキン、としてしまったのだ。

「あの……ごめんなさい。お仕事のお話なら今は取締役も、秘書もいなくて、私では分からないのです」
「はい。そのため、そのお手紙を」

「お母様、開けてみましょう」
「そうね」

 少し震える手で母がそれを開けて、何枚かに綴られた便箋に目を通していく。
 そうして読んでいくうちにみるみるその瞳に涙がたまっていった。

「そうね……。お父様の仰るとおりだわ」
 一体何が書いてあったのだろう。

「片倉さんはこの内容についてご存知なのね」
 顔を上げた母は確認した。

「はい。園村社長は僕の目の前でそれをお書きになったので。入院されたと聞いて、お見舞いに伺った時でした。君、書くものはあるか、と言われてメモ代わりに持っていたレポート用紙をお渡ししました」

 その時のことを思い出すようにゆっくりと、彼は話した。
 優しいその雰囲気に合った低くて柔らかな声だ。
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