政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「今後、こういうことはお互い時間の無駄なので、対応しかねることはご承知おきください」
「こういうこと?」

「私でなければ対応できないような事態はありません。私は現場判断を尊重します。現場に送っているのは私の優秀な部下であり、そもそも対応できないような人材は配置していない。そこをご理解いただきたいのです」

 淡々としていて、論理的な口調は相手を黙らせるのに有効なのだと充分分かった上で、片倉は伝えた。

 そこで、さすがに先方も片倉を怒らせるような事態は良くない、と判断したのだろう。

 今後はしないと約束したので、片倉はその会社の外でタクシーを拾った。
 そして、店に向かったのだ。

 間に合わないかと思ったが、幸いにも浅緋より先に到着する事ができた。
 初回から遅れるなどしたくはなかったから。

「お待たせしてすみません」
 そう言って個室に入ってきた浅緋は、今日は紺色の清楚なワンピースだった。
 首元にシンプルなパールのネックレスが似合っている。

 ふわりと揺れる髪と少しだけ慌てた様子なのが、とても可愛らしくて、片倉の口元には自然と笑みが浮かんでしまっていた。
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