政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「浅緋さん……」
「ごめんなさい。なんでかしら?」

 堰を切ったように涙を流す浅緋に、片倉は驚いたけれど、当然の事だと思う。

 子供のようにぽろぽろと涙をこぼす浅緋が綺麗で儚げで、こんな時だけれど、抱きしめたくなって仕方なくなった。

 立ち上がった片倉は、浅緋にハンカチを差し出す。
「どうぞ」
「あの……でもっ、」
 浅緋はとても戸惑った様子だ。

「泣いている婚約者をそのままになんてしておけません」

『婚約者』ハッキリと明確にそれを口にすることによって、浅緋に片倉の立場を知っておいてほしかった。

 浅緋は驚いた顔はしていたけれど、その表情には嫌悪はない。
 けれど、言われたその言葉を一生懸命噛み砕いて、考えているようにも見えた。

 急に押し寄せただろう思い出に対する涙はまだ止まってはいない。
 けれど、婚約者ではないという否定の言葉も出ない。

「失礼します」
 そう言って、片倉は泣いている浅緋の頭をそうっと胸に抱き寄せた。
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