政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。
「こちらがあなたの部屋です」
 そう言って、片倉がキッチンの隣の部屋のドアを開ける。

 それは片倉が(しつら)えた浅緋のための部屋だった。
 どう思うだろうか?気に入らなかったらどうしようかと想像すると、片倉ですら緊張してしまう。
 片倉が緊張するような事態はそんなにない。

「家具は足りなかったら入れましょう。気に入らなかったら買い替えても構いません」
「はい」

 浅緋がくるりと見て回っている間、片倉は緊張で大きな音を立てる鼓動を抑えることができなかった。

「片倉さん」
「はい」
「お部屋、ありがとうございます。とても素敵で買い替える必要なんてありません」
「良かったです」

(ひと)安心した。どうやら浅緋は部屋を気に入ってくれたようだ。

「ベッドは……ここでよかったのかな?」
 浅緋が気分がよさそうに、にこにこしているので、片倉はついそんなことを浅緋の耳元に囁いてしまう。

「え⁉︎ あ、あ……」
 なにやら浅緋はひどく戸惑っている。
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